建設省土木研究所を訪問して
うみのまち未来研究会
日時
平成8年7月23日(火) 1:00PM〜2:30PM
訪問者(Q)
さくら総合研究所 研究理事 倉又 孝 先生
うみのまち未来研究会 代表幹事 山岸 美隆
うみのまち未来研究会 事務局 金子 靖
訪問先(A)
建設省土木研究所 海岸研究室 室長 田中 茂信 先生
訪問目的・趣旨説明
災害復旧のひとつとして、姫川の堆積土砂を活用した糸魚川海岸の養浜の可能性について検討しているが、その活動の一環として不明な点や疑問点を解消し、渚を再生する活動をとおして糸魚川の活性化につなげていきたい。土砂処理については、既に決定済ではあるが、糸魚川海岸の養浜に利用できるものであればお願いしたい。
地域の現状について説明した。
- 姫川河川の管轄についての説明。
- オリンピックまでにJR大糸線を開通させるために土砂の掘削が必要。
など
田中:基本的な考え方の説明を受ける
基本的には粗い礫で構成されている海岸は、河川の生産域との関係が大きく、特に急流河川で河口から連続している礫の海岸は、その傾向が顕著である。糸魚川のように川の中で翡翠がとれ、それが海岸でもとれるということであるので、河川からの生産物質によって海岸が形成されてきたといってよい。また、一般的には、海岸の粒径分布とほぼ同一のものであれば、土砂投入しても安定すると考えられる。他の場所から持ってくるよりはるかに良い。一般的傾向としては、波打際(汀線)より離れるほど粒径が小さくなっていく。また、養浜事業に取組もうとした場合、時間をかけて育てるという気持ちが必要。公園などで植樹することを考えてみると、木が成長することに伴って緑豊かな公園になるのと同様に、浜も一冬ですべてを作ってしまおうと考えるより数年かけて育て上げた方がよい。
訪問者
田中先生
河川の工事によって、砂がでてこなくなり、その上港が砂止の作用をしています。これが現在の侵食の直接の原因ではないのでしょうか。
海岸の浸食というものは、人工の構造物によって引き起こされるものだけではなく、太古の昔より自然のバランスの中で起こってきたものである。また、季節や天候によって周期的に侵食・堆積を繰り返しながら進行するものなので、養浜を行うときにはそういった環境を良く理解して取組まないといけない。
人工リーフなどの構造物を作って養浜する場合の影響についてお聞かせ下さい。
波、流れ、海底の地形及び底質に与える影響があり、その因果関係が定量化されていないので、技術的にはっきりとしたことは断言できない。また、強風で高波浪の時に、海底でどのような土砂の移動があるかは、未解明である。それは、長期的・マクロ的にみての傾向はつかめても、ミクロ的あるいはある瞬間をとってみると未解明の部分が残されているという意味である。しかしながら、リーフを造って背後に養浜することは、より良い海岸づくりにとって評価できる工法である。
先生の論文の中に、侵食と堆積土砂の総和が同じようになるというものがありますが、これをあてはめて糸魚川の場合、その侵食の原因はどこにあると思われますか。
土砂の消失がなければ、長期的・マクロ的にみて侵食・堆積の総和が同一になると考えられる。しかし、糸魚川にあてはめてみるとこの収支バランスが崩れているようだ。その原因については調査が必要となる。また、その際には沖合いの底質の変化も考慮に入れる必要がある。
砂浜を再生した場合、防砂林・防風林などは必要でしょうか。
必要となる。砂を人工的に投入しても風で飛ばされてしまい、民家などに被害が発生する。松などは、昔から防砂・防風林として利用されているが、松林の海側に風速の小さい場所が発生し、飛ばされた砂が地面へと落下する。砂浜を再生する場合は、砂浜と同時に防砂・防風林も考える必要がある。
人工リーフの効果についてお聞かせ下さい。
人工リーフを通過すると波が低くなり、波浪災害に対する防災効果は認められている。侵食対策については、沖方向の侵食対策として有効であるが、沿岸方向の侵食対策としては効果がはっきりとは確認されていない。海岸の侵食は、この沖方向と沿岸方向の両方向が影響しあうため、人工リーフのみで砂が戻ってくるかどうかは、短期的にはありえても長期的には注意深くみつめる必要がある。
渚を一度再生した後も、維持管理が必要ということでしょうか。
人工の構造物で、元々海岸が持っていた機能をすべて再現することは不可能であるため、長いめでみて浜を育てるという考え方か必要。どれほどの海岸を望のかという程度の差によっても維持管理の必要度合いが変わる。
土砂を投入した場合、既設の人工リーフに対して構造上の負担をかける恐れはないのでしょうか。
まったくない。人工リーフの高さに比べて幅の方がはるかに長いので倒れるというような心配はない。
糸魚川海岸へは現在約7万人の海水浴客が訪れていますが、現在の消波ブロックを第二人工リーフに再利用して、取り除き、渚が復活することにより、その渚に海水浴客を呼び戻し、街の活性化につなげたいと考える人もいますが、そのような事例はありますか。
ある。建設省でも「なぎさリフレッシュ事業」というものを平成4年度から開始しており、消波ブロックを離岸堤もしくは潜堤(人工リーフ)として活用し、消波ブロックの変わりに緩傾斜護岸として渚へのアクセスをスムーズにするという事業で、事例もある。他地域の事例は、海底の状況によって方法・設計などが異なるので、一概には適用できないが参考になると思う。ただし、海をレクレーションで利用しようとしている人と、海で仕事をしている人がいるので、みながよいようなものは、なかなか難しい。とくにさきほどのような事業では潜堤(人工リーフ)の水深をどの程度とするかなどで、漁業関係者との調整が難しい。
投入土砂について、水質汚濁の可能性はあるのでしょうか。また、洗浄が必要となるのでしょうか。
粒径分析結果を見ていないので一般論だが、自然に流れ出た河川の堆積土砂を投入した場合、一時的に濁るが、自然の浄化力に任せた方が、生態系にやさしい。ただし、流れの淀んだ場所で、泥が堆積するようになると、水産資源への影響が考えられる。洗浄の必要性については、投入する土砂の中に含まれているシルト(濁りの成分)以下の成分割合によって検討すればよい。また、河川の堆積土砂であれば、いずれは海に流れ出てしまうので、洗浄の必要はないのではないか。
「シルト以下」とはどのようなものをいうのでしょうか。
粒径が0.074mm以下の細かい粒子。
人工リーフは、沖方向に対する砂止の役割を果たしていますが、沿岸方向に突堤のようなものが必要ないのでしょうか。
波の方向が沿岸方向とほぼ直角で、かつ沿岸の形状からみて、沿岸方向よりも沖方向の方に力点がおかれる。突堤はどうしても必要であるとは言い切れない。また、大きな波の時は、この人工リーフ程度の深さであれば、海底の土砂は簡単に移動する。その外にも考慮すべき点もあり、多面的に考えて結論をだす必要がある。
なぎさリフレッシュ事業の対象となり得るのでしょうか。
いますぐに適用になるかはわからないが、条件には合っていると思う。
災害復旧は非常に大事ですが、災害復旧をかねた新しい景観創造(養浜事業)を公共投資として取組む方がより良いと思うのですがいかがでしょうか。
海岸管理者の方でもそのように考えていると思う。ただ、そうした場合、ある限られた時間内にどの程度の養浜ができるかは検討しなくてはならない。
糸魚川海岸の渚再生に参考になる他の地域を教えてください。
100%同じような条件の場所はないが、部分的に参考になる場所はある。
駿河海岸:静岡河川工事事務所
富士海岸:沼津工事事務所
東播海岸:明石工事事務所
新潟の西海岸は参考にならないのでしょうか。
ならないと思う。理由としては、海底の傾斜が比較的緩やかで、砂が細かいため。
養浜と対策工法を考える場合、複合して行わないといけないのでしょうか。
養浜のみでは流失する可能性が高いので、流失対策の施設と合わせて進める必要がある。また、近年は、離岸堤やリーフと緩傾斜堤を組み合わせた面的防護方式による海岸保全が進められている。ご提案の第二リーフと緩傾斜堤、河川の堆積土砂を利用した養浜が加われば全国的にも最先端の保全工法となるだろう。
計画を推進する上で学習する文献・先例があれば教えてください。
それよりも、各関係者同士の調整が最も必要。お互いの状況を良く理解しあい、ゆずりあって、何がお高いにとって良い解決策かを探り出してほしい。
長時間にわたってありがとうございました。
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